チャウ・チャク・ウィング博物館|無料で会える本物のミイラとCT展示

最終更新:2026年8月

正直に書きます。無料の博物館なので、そこまで期待していませんでした。

2026年8月、家族3人でのシドニー旅行の2日目。シドニー大学のキャンパスを一通り歩いて、最後にもう1か所だけ、と入ったのがチャウ・チャク・ウィング博物館(Chau Chak Wing Museum)でした。

チャウ・チャク・ウィング博物館の外観。打ちっぱなしコンクリートの壁が青空に伸び、手前に木の枝が重なる

結果から言うと、この日いちばん時間を使った場所になりました。本物の古代エジプトの棺とミイラが、目の前のガラス1枚向こうにある。しかもタダで。そして小学3年生のメイが、CTスキャンの画面を自分の指で動かして、ミイラの断面を覗き込んでいました。

のんたん

シドニーで博物館というと海沿いの有名どころに目が行きますが、ここは完全にノーマークでした。入場無料でこの中身は、正直びっくりです!

目次

チャウ・チャク・ウィング博物館とは|大学が160年集めたものを1か所に

場所はシドニー大学キャンパスのメインエントランス付近、ユニバーシティ・アベニュー沿い。クアドラングル(時計塔のある中庭)から歩いて数分です。

コンクリート壁に彫り込まれた「CHAU CHAK WING MUSEUM  THE UNIVERSITY OF SYDNEY」の文字

開館は2020年11月と、博物館としてはまだ新しい部類。設計はジョンソン・ピルトン・ウォーカー(Johnson Pilton Walker)で、中国系オーストラリア人の実業家チャウ・チャク・ウィング氏が2015年に1,500万豪ドルを寄付したことで実現しました。

チャウ・チャク・ウィング博物館の入口。打ちっぱなしコンクリートの庇の下にガラスの自動ドアが並ぶ

この博物館の性格を一言で言うと、それまで学内にばらばらに存在していた3つのコレクションを、1つの建物にまとめた施設です。

  • ニコルソン・コレクション南半球最大の古代遺物コレクション。約3万点。1860年にサー・チャールズ・ニコルソンがイタリアとエジプトの3,000点超を寄贈したのが始まり。エジプト、近東、キプロス、ギリシャ、ローマ
  • マクレー・コレクションオーストラリア最古の自然史コレクション。昆虫標本や剥製、歴史的な科学機器、先住民や太平洋地域の生活用具・儀礼品
  • 大学美術コレクション:絵画・彫刻・写真・陶芸など8,000点超

建物は5階建てで、うち4層が展示スペース。展示面積はおよそ2,000平方メートルですが、常時展示されているのは所蔵品の約3%とのこと。裏を返せば、それだけの規模がここに眠っているということです。

エントランスは3階|降りていくほど時代がさかのぼる

入ってまず戸惑ったのが、エントランスが3階にあることでした。木とコンクリートと自然光でできた吹き抜けがあり、白い階段が下へ降りていきます。

博物館の吹き抜け。白い階段が下階へ続き、天井の光天井から自然光が降りている

案内サインを見ると、フロア構成はこうなっていました。

館内のフロア案内サイン。4階のイアン・ポッター・ギャラリーから1階のマクレー・ギャラリーまで、各階の展示室名が黒い柱に白文字で並ぶ
  • 4階:イアン・ポッター・ギャラリー(企画展)/チャウ・チャク・ウィング・ボードルーム
  • 3階:エントランスとショップ/パワー・ギャラリー/ネルソン・ミアーズ財団オーディトリアム/スクール・エデュケーション
  • 2階:ニコルソン・ギャラリー(古代エジプト・ローマ・ギリシャ)/オブジェクト・スタディルーム/カフェとテラス
  • 1階:マクレー・ギャラリー(自然史・美術・中東とキプロス・写真)/中国ギャラリー/ペネロープ・ギャラリー(現代美術)

つまり入口から下へ降りていく造り。子ども連れだと「まず全体像を掴む」のが難しい建物ですが、この案内サインを1枚撮っておくと、あとで迷いません。

ノリス

入口を最上部に置いて、あとは降りるだけの動線にしてあるんですよね。階段の上り下りで疲れさせない造りで、無料で気軽に来てもらう施設としては理にかなっていると思います。

ローマの展示室|頭のない像と、貝だらけの壺

階段を降りて最初に現れたのが、床に大きく「ROMAN SPECTRES(ローマの亡霊たち)」と書かれた展示室でした。

床に大きく「ROMAN SPECTRES」と記された展示室。大窓からの自然光の中に大理石の胴体像と頭部彫刻が林立している

大きな窓から自然光が入る明るい空間に、白い台座が林立しています。載っているのは頭のない大理石の胴体像と、胴体のない頭部。壁のテキストには「古代世界の壊れた不完全な遺物は、数千年前に生きた人々の亡霊だ」という趣旨の言葉が刻まれていました。

チャウ・チャク・ウィング博物館のローマ展示室。頭部のない大理石の胴体像と、台座に載った複数の頭部彫刻、貝の付いたアンフォラが並ぶ

展示の見せ方が上手なんです。「これは○○という人物の像です」ではなく、「名前も顔も失われた人たちが、断片として残っている」という事実そのものを主題にしている。子どもにも伝わる強さがありました。

そのなかで、メイがいちばん食いついたのがこれです。

ガラスケースに展示された、表面が貝殻でびっしり覆われたワイン用の輸送アンフォラ。ポンペイ製で紀元前250〜200年とラベルにある

表面がびっしり貝殻で覆われた、いびつな塊。ラベルにはこうありました。「ワイン用の輸送アンフォラ(貯蔵壺)。おそらくイタリア・ポンペイ製、紀元前250〜200年、ナポリ湾で発見」。同じケースには、オリーブなどを運んだカルタゴ(チュニジア)製の壺(西暦390〜450年、復元)も並んでいます。

貝がくっついてるってことは、ずーっと海の底にあったんだよね? 2000年も?

そういうことです。船が沈み、ワインの壺が海底に落ち、そこに貝が住みついて、2200年ぶんの時間が壺の表面に積もった。「昔のもの」ではなく「昔からずっと何かが起き続けていたもの」として見えた瞬間でした。

ローマの街がまるごとレゴになっている

ローマの展示室にはもう1つ、子どもの足が完全に止まる展示があります。大きなガラスケースいっぱいに作られた、古代ローマの街のレゴ模型です。

ガラスケースに収められた古代ローマの街のレゴ模型。オレンジの屋根瓦の家並み、神殿、列柱、青いタイルの水盤が細かく作り込まれている

神殿、列柱、劇場、屋根瓦の家並み、街を囲む城壁。そして中庭には青いタイルの水盤。1軒1軒がちゃんと作り込まれていて、細い路地に荷車が停まっていたりします。

レゴで再現された古代ローマの円形闘技場。アーチの並ぶ外壁に赤い旗が立ち、観客席にミニフィグがびっしり座っている

圧巻なのが円形闘技場です。アーチの並ぶ外壁、赤い旗、そして観客席にはミニフィグがびっしり座っている。ケースに顔を近づけると、闘技場の中で何が行われていたのかまで見えてきます。

大理石の像の断片を見たあとにこれを見ると、意味が変わります。壊れた頭部が並んでいた「その街」が、色と屋根と人でいっぱいの姿で目の前にある。失われたものと、復元されたものが、同じ部屋にあるという構成でした。

ノリス

本物の遺物の横に、子どもが知っているブロックで作った街を置く。専門的な展示に入る前の「翻訳」になっていて、これがあるかないかで子どもの滞在時間はかなり変わると思います。

エジプトの展示室|本物の棺と、指でめくるCTスキャン

さらに降りると、照明が落ちた黒い空間に変わります。ここがエジプトの展示です。

照明を落としたエジプトの展示室。奥のガラスケースに人型の棺が立てられ、金色の背景がスポットで照らされている

まず現れるのが、この大きな木の棺でした。

ガラスケースに横たわる古代エジプトの木の棺。右手に断層撮影の画像を映すタッチパネルが設置されている

そして棺のすぐ脇に、タッチパネルの画面があります。映っているのは断層撮影のモノクロ画像。指で位置をなぞると、その場所の輪切り(断面図)が画面に出てくる仕組みです。

メイは説明を待たずに触りはじめました。指を動かすたびに断面が変わり、中に何が入っているのかが見える。ガラス越しの本物と、その中身の画像を、交互に見比べていました。

開けなくても中が見られるんだ! こわさなくても、しらべられるんだね

この一言が、今回の旅育で一番の収穫だったかもしれません。「調べる=壊して中を見る」ではない。壊さずに中を知る方法があり、その技術のおかげで数千年前の人の体を、いま尊重したまま研究できる。難しい言葉を使わずに、それが伝わってしまいました。

棺は角度を変えると、木肌の質感や蓋の合わせ目までよく見えます。

斜めから見た古代エジプトの木の棺。木肌の質感と蓋の合わせ目が分かる

メル・ネイト・イト・エスの棺|1856年に来て、2018年に調べ直された

展示のなかで、いちばん長く立ち止まったのがこの解説板でした。

「The coffin of Mer-Neith-it-es」と題した展示解説板。棺の持ち主の女性、レバノン杉の材、1856年の取得と2018年の発掘について英語で説明されている

「The coffin of Mer-Neith-it-es(メル・ネイト・イト・エスの棺)」。書かれている内容を要約すると、こうです。

  • 棺のヒエログリフから、持ち主はメル・ネイト・イト・エスという女性だと分かっている
  • 棺の材は輸入されたレバノン杉。棺づくりに使われる木材のなかで最も格式が高い(ダボにはシカモアイチジクを使用)
  • エジプト・サッカラ出土、第26王朝(紀元前664〜525年)
  • 1856年にこの棺が取得されたとき、中にはミイラの遺体があったが、護符や貴金属を狙った盗掘者にひどく荒らされていた
  • 2018年、その残されたものが丁寧に発掘された。骨、ビーズ、繊維、固まった樹脂の塊が回収された
  • 骨はわずかしか残っていないが、成人女性のもの——おそらくメル・ネイト・イト・エス本人であることを示している

1856年に博物館へ来て、160年以上たった2018年に、あらためて中身が調べられた。研究には「終わり」がないということが、この1枚の解説板に全部書いてあります。

ちなみに木材の同定は、細胞の構造を走査型電子顕微鏡で調べて行われたと、解説板の下の小さな注記に書かれていました。「レバノン杉だ」という一行の裏に、そこまでの仕事があるわけです。

ローマ時代のミイラ作り|顔に描かれた肖像

もう一つのケースには、人の形のまま横たわる2体がありました。

麻布と膠のカルトナージュに覆われた古代エジプトの人型の棺2体。左は「Menuah: Chantress of Amun」と表示され、赤地に神の姿が描かれている

表面を覆っているのはカルトナージュと呼ばれるもので、麻布と膠を固めて作られた覆いです。顔にあたる部分には彩色が残り、金色の装飾も見えます。

隣の解説板が、この時代のミイラ作りについて説明していました。

「Mummification in the Roman Period」と題した展示解説板。ローマ支配後のミイラ作りの変化について英語で説明されている

「Mummification in the Roman Period(ローマ時代のミイラ作り)」。要点はこうです。

  • 紀元前30年にエジプトがローマの支配下に入ったあとも、ミイラ作りは続いた。ただし技法と様式は変化した
  • 大きな革新のひとつが、故人の肖像を、麻布と膠のマスクや木の板として、包まれた顔の上に置くこと
  • ローマ期のミイラ作りは「質が落ちた」と言われることが多いが、実際には多くの遺体が丁寧に処理され、良好に保存されている
  • それ以前のエジプトでは稀だった「子どものミイラ」が、プトレマイオス朝〜ローマ期に増えた

最後の1行は、大人にも重いところです。展示にはこうした内容が含まれるので、お子さんの様子を見ながら進むのがいいと思います。

パパのワンポイント|子連れで行くときの実用情報

  • 入場は無料:常設展は無料です。特別展の扱いは時期により変わるので、公式で確認してください
  • 開館時間は平日と週末で違う:月〜金 10:00〜17:00/土日 12:00〜16:00。週末は4時間しか開いていません
  • 無料ロッカーがある:荷物を預けて身軽に回れます。旅行中の大きな荷物がある日でも助かります
  • 授乳室は1階:小さいお子さん連れでも安心です。車いす・スツール・エンクロマ(色覚補助)メガネの貸出もあります
  • 2階にカフェとテラス:隣接する公園の緑を眺めながら休憩できます。無料Wi-Fiもあります
  • 所要時間は1時間前後から:我が家は駆け足で30〜40分ほどでしたが、全4層をきちんと見るなら2時間は欲しい規模です

今回の「おもしろ発見(旅育)」まとめ

旅育ポイント
  • 「こわさなくても、しらべられる」:棺の脇のタッチパネルで、自分の指で断面を動かして中を見た。調べることは壊すこととイコールではない——科学がなぜ必要なのかを、説明ではなく手で理解した瞬間でした
  • 貝の付いた壺で、2000年が可視化された:「貝がくっついてるってことは、ずっと海の底にあったんだよね?」。時間の長さは、数字より「その間に起きたこと」で伝わるのだと教わりました
  • 研究に終わりはない:1856年に博物館へ来た棺の中身が、2018年にあらためて発掘され調べ直された。「大昔に分かったこと」ではなく「いまも続いている仕事」なのだと、解説板を一緒に読みながら話しました
  • 失われたものと、復元されたものを並べて見る:頭部を失った大理石の像の隣に、ミニフィグで埋まったレゴの円形闘技場。断片から街を想像する、という考古学の入口に立てました

★ チャウ・チャク・ウィング博物館の総合評価

★ 総合評価(家族3人・2026年8月訪問)

観光・体験の満足度 ★★★★★(南半球最大の古代遺物コレクションであるニコルソン・コレクション約3万点と、オーストラリア最古の自然史コレクションを1つの建物で見られます。第26王朝の本物の棺の前に、断面を自分の指で動かせるタッチパネルが置いてあるという展示は、他ではそうそう出会えません。それが入場無料。この規模と内容を無料で開いている点で、同カテゴリから頭一つ抜けていると判断しました)
子連れのしやすさ ★★★★☆(無料ロッカー、1階の授乳室、車いす・スツール・エンクロマメガネの貸出、学校教育専用フロアと、受け入れの設計が明確です。CTのタッチパネルやレゴの街など、子どもが自分から触れる展示もあります。ただし子ども向けの常設プログラムまでは確認できず、ローマ期のミイラの展示には子どもの死に触れる説明も含まれるので★4に留めます)
コスパ ★★★★★(常設展は入場無料。本物のエジプトの棺、ポンペイ製のアンフォラ、古代ローマの彫像を1円も払わずに見られます。無料ロッカーとWi-Fiまで含めて、費用ゼロで1〜2時間が成立しました)
アクセス・利便性 ★★★★☆(レッドファーン駅から徒歩10分ほど、パラマタ・ロードのバス停からも歩けます。キャンパスのメインエントランス付近で、クアドラングルから徒歩数分。ただし土日は12時〜16時の4時間しか開いておらず、訪問者向けの駐車場は前提にできません)

📖 シドニー大学キャンパス散策の全体まとめはこちら

このクラスターの全体まとめはシドニー大学 観光ガイド|家族で歩いた無料キャンパスの2時間半でまとめています。あわせてどうぞ。

施設情報

【施設名】チャウ・チャク・ウィング博物館(Chau Chak Wing Museum, The University of Sydney)
【所在地】Chau Chak Wing Museum, University Place, Camperdown NSW 2050, Australia
【電話番号】+61 2 9351 2812
【営業時間・定休日】月〜金 10:00〜17:00/土日 12:00〜16:00(年末年始などの休館日は公式で要確認)
【料金目安】入場無料(常設展)。特別展は時期により扱いが異なります
※最新の開館状況・企画展の情報は、必ず公式HPをご確認ください。

広告(PR)

ホテル・旅館の予約はヤフートラベル。お得なクーポン配布中
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

関西在住の40代。妻マイ・娘メイとの家族旅行を「旅育」として綴る、ブログ「のんたん家のはなし」の筆者です。夫婦そろって大手小売・流通グループのフルタイム管理職。ANAプラチナ(SFC)・ヒルトンダイヤモンド・マリオットプラチナの上級ステータスを活かしたVIP体験と、47都道府県制覇の旅の記録を、パパ目線でお届けしています。現在はANAダイヤモンドへの復帰を目指して修行中です。

コメント

コメントする

目次