ペナン島のジョージタウンは、街ぜんぶが屋根のない美術館みたいな場所でした。壁に絵があって、その絵に本物の自転車やブランコがくっついていて、乗って写真が撮れる。入場料はゼロ円です。

2026年7月、家族3人で歩いてきました。結論から言うと、小3のメイがいちばん食いついたのが、この街歩きでした。お寺でも博物館でもなく、ただの壁です。
のんたん正直、行く前は「壁の絵を見に行くだけでしょ?」と思っていました。完全になめてました。1時間、ずっと宝探しでした。
ストリートアートは「1カ所」にない。街そのものが展示場
いちばん最初に共有しておきたいのがこれです。ジョージタウンのストリートアートは、どこか1カ所にまとまっていません。街の中に散らばっていて、1つずつ探しながら歩くことになります。


この街並みそのものが会場です。中国語の看板、コロニアル様式の窓、トタン屋根。歩いているだけで絵になる通りを進んでいくと、ふいに壁に絵が現れる。「あった!」の瞬間が何度もやってくるのが、この街歩きの本体でした。
ちなみにジョージタウンは、2008年にユネスコの世界文化遺産に登録された街区です。壁画はその中にそのまま描かれています。



点在させているのが効いているんですよね。1カ所に集めたら5分で終わる展示が、街に散らすだけで1時間の回遊になる。その間ずっと、通り沿いの店の前を通ることになります。
まず会いに行った《Kids on Bicycle》
ペナンのストリートアートで、いちばん有名なのがこれです。アルメニアン通り(Lebuh Armenian)の壁にいる、自転車に乗った姉弟。


この絵、そもそもの生まれが面白いんです。2012年のジョージタウン・フェスティバルの企画「Mirrors George Town」で、当時26歳だったリトアニア出身のアーティスト、アーネスト・ザカレヴィッチが街に描いた6点のうちの1点。翌2013年には、英ガーディアン紙が「世界のベスト・ストリートアート」の1つとして取り上げています。
そして2024年9月、作者本人がペナンに戻ってきて、この絵を含む3点を修復しました。絵だけでなく、壁と小道具まで手を入れたそうです。だから私たちが見たのは、修復されたあとの姿ということになります。
自転車、本物じゃん!絵から出てきたみたい。
そうなんです。壁に描かれているのは子どもたちだけで、自転車は本物が壁に据え付けられている。だから絵の前に立つと、平面と立体の境目がわからなくなります。
正直に書いておくと、ここは人気作なので写真の順番待ちの列ができていました。数分待てば回ってきますが、「ふらっと寄って独り占め」は期待しないほうがいいです。
絵に「本物」がくっついている。だから乗れる
この街のストリートアートが子どもに刺さる理由は、はっきりしています。見るだけじゃなく、乗れるからです。


アークィー通り(Lebuh Ah Quee)のバイクの絵。壁に描かれた男の子の前に、本物の古いバイクが1台置いてあります。赤い木の扉、剥がれかけたレンガ、錆びたバイク——絵と現実の境目がどこなのか、しばらく見ていてもわかりません。


こちらはブランコ。壁に描かれた2人の子どもが乗っている板は、本物の鉄枠と鎖でできた、実際に座れるブランコです。隣にもう1つ空いた席があって、そこに座ると絵の子どもたちと並ぶ形になります。
これ、絵の中に入れるってこと?わたし3人目になれる!
この「3人目になれる」という発想が出てきたのが、親としてはうれしかったところです。鑑賞する側から、絵の登場人物の側にまわった。マイも隣で笑いながら、何枚もシャッターを切っていました。



本物を1つ足すだけで、体験の種類が変わるんですよね。「撮る」から「参加する」へ。しかも設置コストは自転車1台とブランコ1基です。投資の割に効きが大きいと思います。
壁のヒビまで絵の一部にしてしまう


これは個人的にいちばん唸った1枚です。リアルに描かれた男の子が、線だけで描かれた恐竜を引っぱっている。しかも、恐竜の体は壁のセメントが剥がれて露出した部分にちょうど重なっています。
普通なら「壁が傷んでいる」で終わる場所です。それを直すのではなく、絵の材料にしてしまっている。



メイに「なんで壁のボロボロのところに描いたと思う?」と聞いたら、しばらく考えて「隠したかったんじゃなくて、使いたかったんだと思う」と。その通りだと思います。
2012年で止まっていない。2025年の新作もありました
ジョージタウンのストリートアートを「2012年の遺産」だと思っていたのですが、歩いてみると全然そんなことはありませんでした。


猫の着ぐるみを着た子どもがキックボードに乗っている、この大きな壁画。右下のサインを見ると「ALEX FACE 2025」と読めます。タイのアーティスト、アレックス・フェイス。バンコクからペナンまで約1,300kmを自転車で走ってきて、その道中でジョージタウンに数点の壁画を残していったそうです。
左下には、ドリアンを放り投げている女の子の絵も添えられています。ペナンといえばドリアン。こういう地元ネタが入っているのを見つけると、うれしくなります。


路地の奥にあった、ウミガメとサンゴ礁の壁画。壁の隅に描き手のアカウント名がいくつも並んでいて、複数の作家が共同で描いたもののようでした。メイはこの前でしばらく動かず、「これ、海の中に立ってるみたいになる」と言って自分から前に立ちました。
消防署の壁も、街のキャンバスでした
意外だったのがここ。1908年築の中央消防署(Central Fire Station)の脇の壁が、まるごと壁画になっていました。


描かれているのは消防隊の仕事そのものです。「Helicopter Rescue」はヘリコプターからロープで降下する救助隊員と、山の斜面を走る登山電車。「Animal Rescue」は動物の救助。アーティストの作品というより、その建物で働いている人たちの仕事を紹介する壁でした。
これ、山の電車を助けてるところだよね。すごい仕事だ。
ジョージタウンのストリートアートには、こういう「観光客向けではない絵」も混ざっています。有名作をチェックリスト的に回るだけだと素通りしてしまう場所ですが、メイの反応がいちばん素直だったのは、実はここでした。
見上げる展示室|傘の路地と、花の路地
壁だけではありません。この街は上も使います。


アルメニアン通りから細い脇道に入ると、突然、頭の上が色だらけになります。通称アンブレラ・アレイ(Lorong Payung)。全長100mほどの路地に、カラフルな傘がびっしり吊り下げられています。


真下から見上げるとこうなります。曇り空だったのが逆によくて、傘の色だけが浮き上がって見えました。



ここは3人とも無言で上を向いていました。写真は誰が撮ってもきれいに写ります。子どもの機嫌が落ちてきたタイミングで入ると、一発で復活します。


別の路地では、色とりどりの柱にお花の飾りがついていて、頭上には針金を丸めたランタンが並んでいました。こういう名もない路地が、角を曲がるたびに出てくる。だから地図に載っている有名作だけを回ると、たぶん半分も見ないまま終わります。
寄り道もセットでついてくる


歩いていると、こういうお店にも出会います。ドリアンの専門店。看板にドリアンの品種名がずらりと並んでいて、絵の中で女の子が投げていたあのドリアンが、現物として山積みになっていました。



壁画で見たものが、数分後に実物として現れる。この距離の近さが街歩きの強さなんですよね。絵と店と食が同じ動線に乗っているので、記憶が1本につながります。
今回のおもしろ発見(旅育)
🌏 今回のおもしろ発見(旅育)
① 「見る人」から「絵の中の人」になった— ブランコの空席に座って「わたし3人目になれる」。作品は完成品ではなく、自分が入って完成するものもあると体で理解した
② 壊れた壁を、直さずに使うという発想— 剥がれたセメントを恐竜の体にしてしまう発想に、「隠したかったんじゃなくて、使いたかった」と自分の言葉で答えを出した
③ 絵は昔の人が残したものだけじゃない— 2012年の壁画の隣に「2025」とサインされた新作がある。街が今も描かれ続けていることに気づいた
④ 観光客向けじゃない絵もある— 消防署の壁画に描かれていたのは、そこで働く人たちの仕事だった。誰に向けて描かれた絵なのかを考えるきっかけになった
パパのワンポイント|ストリートアート巡りのコツ
✅ 歩く前に知っておきたいこと
① すべて無料・時間の制限もありません。屋外にそのまま置かれているので、チケットも予約も不要です
② 有名作は写真の順番待ちがあります。《Kids on Bicycle》は列ができていました。人が少ない時間に撮りたいなら早い時間がおすすめです
③ アンブレラ・アレイは夕方から混みます。傘の路地は16時以降がいちばん賑わう時間帯。写真重視なら昼間のうちに
④ 日陰が少ないので水分は必須。わが家は正味1時間弱の街歩きでしたが、それでも汗だくでした。休憩できるカフェを1軒決めておくと安心です
⑤ 壁画のほかに「鉄の棒の作品」も52点あります。2009年に州が公募し、翌年から順次設置された立体作品で、それぞれの通りの歴史を漫画的に説明しています。見つけるとうれしくなるので、子どもに探させると盛り上がります
⑥ 徒歩圏にカピタン・クリン・モスク・セント・ジョージ教会・チュー・ジェッティ(姓周橋)。半日でまとめて回れます
★総合評価
★ ジョージタウンのストリートアート 総合評価
観光・体験の満足度 ★★★★★(2012年のジョージタウン・フェスティバル発の壁画群が、世界遺産の街区にそのまま残っている。英ガーディアン紙が世界のベストに挙げた《Kids on Bicycle》の実物に触れられ、2024年には作者本人が修復に戻ってきた。「代わりのきく場所」がない)
子連れのしやすさ ★★★★☆(本物のブランコと自転車に乗れる参加型で、宝探し形式なので子どもが飽きない。一方で子ども向けの設備があるわけではなく、日陰が少なく、人気作は順番待ちがある)
コスパ ★★★★★(完全無料。チケットも予約もなく、1時間まるごと遊べる。有料の博物館より小3が食いついた)
アクセス・利便性 ★★★★☆(ジョージタウン中心部の徒歩圏に集中していて、車もツアーも不要。ただし作品が点在しているので、地図なしで歩くと確実に取りこぼします)
満足度とコスパを★5にしました。無料で、しかもここにしかない——この2つが同時に成立している場所は、そう多くありません。
子連れとアクセスを★4に留めたのは、正直な理由です。ベンチも日陰も特別には用意されていませんし、地図を持たずに歩くと有名作の半分も見つけられません。準備した分だけ楽しめる場所だと思っておくのが正解です。
このクラスターの全体まとめはペナン3泊4日まとめ|空港到着からKLへの陸路移動まで全19記事でまとめています。あわせてどうぞ。
施設情報
【名称】ジョージタウンのストリートアート(George Town Street Art)
【エリア】Lebuh Armenian(アルメニアン通り)/Lebuh Ah Quee(アークィー通り)周辺、10200 George Town, Penang, Malaysia
【料金】無料。すべて屋外の公道沿いにあります
【見学時間】屋外のため制限はありません。明るい時間帯の見学がおすすめです
【所要時間の目安】主要な壁画を回って1時間前後。路地の寄り道を入れると2〜3時間も可能
【代表作】《Kids on Bicycle》(アルメニアン通り)/《Boy on Motorbike》(アークィー通り)/《Children on a Chair》(キャノン通り)。いずれも2012年にアーネスト・ザカレヴィッチが制作し、2024年9月に本人が修復
【そのほか】2009年の公募で採用された鉄の棒の立体作品「Marking George Town」52点が街なかに設置されています
【アンブレラ・アレイ】Lorong Payung。アルメニアン通りとアークィー通りを結ぶ全長約100mの路地。混雑のピークは16時以降
【アクセス】ジョージタウン世界遺産エリアの中心部。徒歩またはGrabで。街区内は一方通行と細い路地が多く、徒歩がいちばん早いです
※屋外作品のため、修復・改装・取り壊し等で状態が変わることがあります。生活道路に面した作品も多いので、住民の方や車の通行の妨げにならないよう気をつけて鑑賞してください。
子連れの海外旅行って、移動も食事も気を張りっぱなしで、正直しんどい時間もあります。それでも、ブランコの空席に自分から座りにいったメイの顔を見た瞬間に、来てよかったなと思えました。ジョージタウンのストリートアートは泊まる場所が街区の中か外かで、歩ける量がまるで変わります。気になった方はぜひ以下のリンクから、空室状況や最新のプランを確認してみてくださいね。素敵な旅になりますように!
ペナンのストリートアート よくある質問
ジョージタウンのストリートアートは有料ですか?
無料です。すべて屋外の公道沿いの壁に描かれていて、チケットも予約も必要ありません。時間の制限もないので、いつでも見られます。
全部見るのにどれくらい時間がかかりますか?
わが家は主要な壁画とアンブレラ・アレイを回って1時間弱でした。カフェや土産物屋に寄り道しながらだと2〜3時間は楽しめます。作品が街に散らばっているので、時間は歩く範囲しだいです。
子連れでも楽しめますか?
むしろ子連れ向きだと感じました。壁の絵に本物の自転車やブランコが取り付けられていて、乗って写真が撮れます。「見て回る」ではなく「探して乗る」になるので、小学生でも飽きません。ただし日陰が少なく、子ども用の休憩設備はないので、水分と休憩場所は自分で確保してください。
いちばん有名な壁画はどこにありますか?
《Kids on Bicycle》(自転車に乗った姉弟)で、アルメニアン通り(Lebuh Armenian)にあります。2012年にアーネスト・ザカレヴィッチが描いた作品で、2013年に英ガーディアン紙が世界のベスト・ストリートアートの1つとして紹介しました。人気なので写真の順番待ちがあります。
効率よく回るにはどうすればいいですか?
アルメニアン通りとアークィー通りの周辺に有名作が集まっているので、この2本を軸に歩くのが基本です。作品は点在していて見落としやすいため、地図やマップアプリで場所を保存してから歩き始めると取りこぼしが減ります。宿をこの街区の中にとると、朝夕の空いた時間に何度でも歩きに出られます。








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