最終更新:2026年8月
フードコートでお昼を食べたあと、キャンパスを北へ歩いていくと、コンクリートの現代建築が急に途切れて、目の前に砂岩の城が現れました。

2026年8月、家族3人でのシドニー旅行の2日目。シドニー大学のキャンパスを歩いた午後の話です。同じ大学の敷地の中に、19世紀のゴシック建築と、スプレー缶で埋め尽くされた地下通路が並んで存在している——このギャップこそが、我が家がここを面白がった理由でした。
のんたんハリー・ポッターの世界みたいな回廊を歩いた15分後に、天井までペンキだらけのトンネルにいる。同じキャンパスで、この落差です!
クアドラングルと時計塔|オーストラリア屈指のゴシック建築群
キャンパスの中心にあるのが、四方を建物で囲んだ中庭「クアドラングル(The Quadrangle)」です。その正面に立つのが時計塔。旗がはためく尖塔の下に文字盤があり、その真下がキャンパスのメインゲートになっています。


設計はエドマンド・トーマス・ブラケット。1854年に着工した、ヴィクトリアン・アカデミック・ゴシック・リバイバル様式の建築群で、素材はシドニー砂岩です。大学自身が「おそらくオーストラリアで最も重要なゴシック・リバイバル建築群」と紹介しています。
面白いのは、完成までに110年以上かかっていることです。四方が閉じて「四角い中庭」になったのが1924年、西側の塔ができたのは1960年代。1つの中庭を、100年以上かけて世代をまたぎながら閉じていったわけです。
訪ねた8月は南半球の冬で、門の周りを覆うツタが葉を落として、砂岩の壁に茶色い網目のような模様を描いていました。壁の高いところには色ガラスの窓と、盾の紋章の彫刻。


そして、ぜひ見上げてほしいのがガーゴイル(雨樋の彫刻)です。ヨーロッパのゴシック建築なら怪物や悪魔が定番ですが、この大学のガーゴイルにはカンガルー、ワニ、クッカバラといったオーストラリアの動物が混ざっています。ヨーロッパから持ち込んだ様式に、この土地の生き物を彫り込んだわけです。
お城みたいなのに、カンガルーがくっついてるの? ぜんぜん合ってないのに、なんかいい!
「合ってないのにいい」という小学3年生の感想が、実はこの建物の本質だったりします。よその国の様式をそのまま真似るのではなく、自分たちの土地の動物を彫り込む。借りてきた形に、自分の場所の中身を入れるという発想が、石の細部にちゃんと残っているんですね。
中庭は「現役の行事の場所」だった
アーチをくぐって中庭に入ると、思っていた景色と少し違いました。芝生の両脇に大きな白いテントが張られ、オレンジのバリケードと立入規制のテープが渡されて、設営の真っ最中だったのです。


最初は「せっかく来たのに」と思いました。でもよく考えると、これはこの中庭がいまも現役で使われている証拠です。クアドラングルに面したグレートホール(Great Hall)は、卒業式や演奏会、講演会に使われる現役のホール。梁には12体の木製の天使像が並び、ステンドグラスが入っている空間です。
ちなみに大学が案内している「The University Organ」は1972年完成、54ストップ・4,005本のパイプという規模。演奏の予定は大学のイベントカレンダーに出ます。



観光地として保存された建物ではなくて、いまも卒業式が行われている場所なんですよね。だから設営中のテントに当たることもある。それは残念というより、生きている建物の証拠だと思います。
知っておくと得する|時計塔のカリヨンが鳴る曜日と時間
下調べなしで行くと確実に見逃すのが、時計塔のカリヨン(組み鐘)です。
この時計塔に収められている「University of Sydney War Memorial Carillon」はオーストラリアに3台しかないカリヨンのひとつで、残る2台はキャンベラとバサースト。1928年に献納された戦争記念のカリヨンです。
- 演奏日時:火曜と日曜の13:00〜14:00
- 休演:大学の試験期間と祝日は演奏なし
- ツアー:演奏後に塔内を見学するツアーの予約が可能
キャンパスの見学を組むなら、この1時間に合わせて中庭にいるのがいちばん贅沢です。100年近く前の鐘が、砂岩の中庭に響くところを聴けます。
グラフィティトンネル|大学が唯一「塗っていい」と決めた壁
クアドラングルの裏手、サイエンス・ロードとマニング・ロードのあたりに、校舎の地下をつなぐ通路があります。細い階段を降りていくと、空気が変わりました。


壁に小さなプレートが1枚。


GRAFFITI TUNNEL。この先が、大学公認のグラフィティトンネルです。


入った瞬間、メイが声を上げました。壁だけではありません。天井も、配管も、階段も、床まで、何層にも重なったスプレーとポスターで埋め尽くされています。シンナーの独特なにおいが薄く漂っていて、蛍光灯の光がその色を上から照らしていました。
ゆかにも描いてある! ここ、落書きしていいの!?
この「していいの?」に答えてくれるのが、通路の壁に貼られた1枚の規約看板です。子連れで来たなら、ここは絶対に一緒に読んでほしいところ。


看板には「GRAFFITI TUNNEL REGULATIONS(グラフィティトンネル規約)」として、こう書かれています。
- 攻撃的な、あるいは苦情の出るメッセージは消される
- 掲示・ポスター・看板・落書きは、トンネルの両端の外側や中央の囲いの向こう、扉・標識・階段の踏み面には禁止
- このトンネルは、キャンパスで唯一ペイントの使用が許可されている場所
- 塗料の蒸気(fumes)のため、平日の7時〜19時のあいだは作業禁止
「自由に描いていい壁」ではなく、「どこまでが自由か」を4行で決めてある壁なんです。しかも4つ目は美観の話ではなく、通行する人の健康を守るための時間制限。徹底しています。



禁止するより「ここだけは許可する」と決めるほうが、結果的に管理しやすいんですよね。散らばるはずだったものが1か所に集まって、名所にまでなっているのが面白いところです。
もともとの発祥は1970年代、ベトナム戦争に対する学生の反戦運動だと大学は説明しています。政治的・社会的なメッセージを発信する場所として使われはじめ、いまは大学が公認する「リーガル・ウォール(合法的に描ける壁)」として残っている——半世紀ぶんの学生運動の歴史が、そのまま塗り重ねられているわけです。
そして重要なのは、ここは日々上書きされるということ。学生やアーティストが描き足していくので、私たちが見た絵はもう残っていないかもしれません。同じ写真は二度と撮れない場所です。
トンネルを抜けると、レンガ造りの落ち着いた建物の脇に出ました。「A09 Holme Building」の表示。この先に、大学のお土産ショップとレストランがあります。


パパのワンポイント|歩く順番と、子連れの注意点
- 順番はクアドラングル→トンネルがおすすめ:先に荘厳な砂岩の中庭を見てからトンネルに入ると、落差が最大化します。逆順だとゴシック建築の印象が薄まります
- トンネルは階段でアクセス:地下通路なので降りる階段があります。ベビーカーだと持ち上げが必要です
- 塗料のにおいがある:描いた直後の場所ではにおいが強めです。においに敏感なお子さんは、通り抜けを短めにしたほうが無難でした
- 中庭は行事で入れないことがある:卒業式などの設営中はテープで区切られます。外から見るぶんには問題ありません
- 火曜・日曜の13時はカリヨン:予定が合うなら、この時間を中庭で過ごす価値があります
今回の「おもしろ発見(旅育)」まとめ
- 借りてきた形に、自分の土地を入れる:ヨーロッパのゴシック建築に、カンガルーとワニのガーゴイル。「ぜんぜん合ってないのに、なんかいい」というメイの一言が、この国の建物の成り立ちそのものでした
- 「落書きしていいの?」を看板で確かめた:ダメだと教わってきたことが、ここでは許されている。その理由と条件が壁の看板に4行で書いてある。ルールは丸暗記するものではなく、書いてある場所を探して読むものだと分かった瞬間です
- 100年以上かけて完成した中庭:着工1854年、四方が閉じたのが1924年、西塔は1960年代。「自分が生きているあいだに終わらない仕事」があることを、石を見ながら話せました
★ シドニー大学クアドラングル&グラフィティトンネルの総合評価
★ 総合評価(家族3人・2026年8月訪問)
観光・体験の満足度 ★★★★☆(1854年着工のゴシック・リバイバル建築群と、大学が唯一ペイントを許可した地下通路。この2つが徒歩5分の距離に並んでいる面白さは確かにあります。ただしグレートホールの内部は行事の都合で入れないことがあり、私たちが見たのも外観と回廊まで。唯一無二とまでは言い切れないので★4に留めます)
子連れのしやすさ ★★★☆☆(無料で自由に歩けて、中庭は芝生で開けています。一方でトンネルは階段でのアクセスになり、塗料のにおいもあります。子ども向けの展示や設備は特にありません。連れて行けるが特別な配慮はない、という水準です)
コスパ ★★★★★(クアドラングルもグラフィティトンネルも見学は無料。この規模のゴシック建築群と、半世紀続くストリートアートの現場を、1円も払わずに歩けます)
アクセス・利便性 ★★★★☆(レッドファーン駅から徒歩10分ほど。パラマタ・ロードのバス停からも歩けます。キャンパス内の案内は整っていますが、トンネルは案内が控えめで少し探しました。訪問者向けの駐車場は前提にできません)
このクラスターの全体まとめはシドニー大学 観光ガイド|家族で歩いた無料キャンパスの2時間半でまとめています。あわせてどうぞ。
施設情報
【施設名】シドニー大学 クアドラングル/グラフィティトンネル(The Quadrangle & Graffiti Tunnel, The University of Sydney)
【所在地】The Quadrangle, The University of Sydney, Camperdown NSW 2006, Australia
【営業時間・定休日】キャンパスの屋外エリア・中庭・トンネルは通年で通り抜け可能。グレートホール内部は行事により見学不可。カリヨンの演奏は火曜・日曜の13:00〜14:00(試験期間・祝日は休演)
【料金目安】無料(キャンパスツアー・カリヨンツアーは別途、大学の案内を要確認)
※最新の見学可否・イベント情報等は、必ず公式HPをご確認ください。
家族旅行で「大学に行く」って、正直いちばん反対されそうな提案ですよね。しかも入場料がかからない場所ほど、行く理由を説明しにくい。それでも歩いてみると、教科書で見た様式の建物と、いまの学生が今週描いた絵が、同じ敷地に並んでいます。メイも「ゆかにも描いてある!」と目を丸くして、そのあと看板の4行を一緒に読みました。我が家は、宿はいいところをできるだけコスパ良く押さえて、そのうえで現地の体験にはしっかり飛び込む、という組み立てが好きです。都市を歩く旅なら、キャンパスを半日ぶんの行き先として数えておくと、選択肢がぐっと広がりますよ。素敵な旅になりますように!
シドニー大学クアドラングルのよくある質問
観光客でもクアドラングルに入れますか?予約は必要ですか?
入れます。シドニー大学のキャンパスは一般に開かれていて、クアドラングルの中庭も予約なしで歩けます。我が家も家族3人で自由に見学しました。ただし卒業式などの行事があるときは、設営や式典のために中庭が区切られることがあります。グレートホールの内部見学はキャンパスツアーなどの機会に限られます。
グラフィティトンネルはどこにありますか?
クアドラングル(時計塔のある中庭)のすぐ裏手、サイエンス・ロードやマニング・ロード周辺の校舎の地下をつなぐ通路にあります。階段を降りた先の壁に「GRAFFITI TUNNEL」の小さなプレートが出ています。案内は控えめなので、地図アプリで「Graffiti Tunnel Camperdown」を目印にすると確実です。
グラフィティトンネルは誰でも描いていいのですか?
現地の規約看板には「このトンネルはキャンパスで唯一ペイントの使用が許可されている場所」と明記されています。ただし、攻撃的なメッセージは消されること、トンネルの外側や扉・標識・階段の踏み面には描いてはいけないこと、塗料の蒸気のため平日7時〜19時は作業禁止であることも同時に書かれています。見学だけなら時間の制限はありません。
時計塔の鐘(カリヨン)はいつ鳴りますか?
大学の案内では、火曜と日曜の13:00〜14:00に演奏されます。大学の試験期間と祝日は休演です。オーストラリアに3台しかないカリヨンのひとつで、1928年に献納された戦争記念のカリヨン。演奏後には塔内を見学するツアーの予約もできます。
見学の所要時間はどれくらいですか?
クアドラングルの中庭と回廊をひと回りして15〜20分、グラフィティトンネルの往復で15分ほど。写真を撮りながらでも、合わせて30〜40分あれば十分に回れます。同じキャンパス内にある博物館やフードコートと組み合わせれば、半日の行き先として成立します。









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